コラム・エッセイ
ナチュラルヒストリー礼賛 (2009年07月10日掲載)
自然のありのままの姿とその仕組みや生い立ちを研究するナチュラルヒストリーは、人類が生まれながらにもっている知的好奇心に根ざす最も根源的な基礎科学で、まさに科学の原点であると思います。研究は生物科学・地球科学で扱うさまざまな自然の事物・事象を対象とするので、多くの専門分野に分かれ、目的や方法も多様ですが、いくつか共通する特徴があります。
ナチュラルヒストリーの研究は、いつの時代でも目先の利益追求や世の中の俗事にはおよそ関係なく、個人または少人数で行われ、人類の未来にとって欠かすことのできない自然の理解と正しい自然観の形成に貢献してきました。研究の意義を問われても、そう答えるだけで十分であると思います。自然にはまだ分かっていないことが圧倒的に多く、ナチュラルヒストリーはいつまでも続ける必要がある奥深い学問であると思います。その一方では、身近な野外科学と大衆科学の性格もあり、探究心さえあれば、誰でも、どこでも、いつでも研究を始めることができます。少年やアマチュア研究者が多いのも大きな特徴です。個人の科学研究への動機としてもきわめて重要な役割を果たしています。また、この分野の研究には他では考えにくいようなロマンや発見、そして感動や喜びがあります。私もこのようなささやかな体験がいくつか重なって研究がやめられなくなりました。
このようにナチュラルヒストリーは比類のないすばらしい学問であると思いますが、性急な実利を求める現代社会では研究に都合のよいことばかりではありません。人々の生活の改善に直接の効用が認められることが少ないので、自由な研究ができる職は非常に限られ、一般に研究費にも恵まれていません。しかし、これは最近になって始まったことではなく、多くの研究者がこのような困難を克服して芽生えた研究を発展させて優れた成果をあげてきました。もう研究の一線を退いている身ですが、これからもナチュラルヒストリーの発展を見守り何がしかの貢献をしたいと思っています。